ホーム > 日常を楽しむ > イタリアの職人を訪ねて 第9回 「パイプオルガンを創る職人の工房~オルガン工房 フラテッリ・ルッファッティ~」

日常を楽しむ

イタリアの職人を訪ねて 第9回 「パイプオルガンを創る職人の工房~オルガン工房 フラテッリ・ルッファッティ~」

ヴェネト州パドヴァの町はずれにある25人のアルティジャナーレ(職人)たちがつくるパイプオルガンの工房。

 同社の作品のひとつ。スウェーデン・ユップサーラ市の教会。

ヴェネト州パドヴァにあるオルガン工房、『フラテッリ・ルッファッティFratelli Ruffatti』。
ここから発信されているのは、イタリアをはじめ世界中へと向けて製造されているパイプオルガンだ。

上記はあえて“パイプオルガン”と表したが、西欧では“オルガン”というといわゆる“パイプオルガン”を指すのが普通。それに対し日本でいう“オルガン”は、箱型の“リードオルガン”が一般的な概念となっている。
(以下、“オルガン”は“パイプオルガン”を指す。)

これもオルガンの育ってきた歴史、つまりはオルガンがキリスト教会の楽器として確立してきたという宗教的な理由が背景にあるようだ。

 現在の経営者、フランチェスコ・ルッファッティ氏。

さて、このオルガン工場の創業は、1940年のこと。パドヴァ出身のアントニオ・ルッファッティ氏とその2兄弟が創業者であり、工場の名を日本語にするならば、『ルッファッティ兄弟』。現在の経営者はアントニオ氏の息子であるフランチェスコ氏とピエロ氏2兄弟である。ここでもやはりイタリア特有の家族経営のスタイルだ。
父アントニオ・ルッファッティ氏の創業のきっかけは彼の従兄が教会の司祭であったことに依る。モノ創りに長けていた彼に教会でのミサに使用するオルガン製作を依頼したことがその発端。自宅庭先で始まったこの作業は序々に本格化、その時点ですでにオルガン工場として操業していた現存の地にあるものを買い取り、規模を少しづつ大きくしながら現在のような姿となっているのだという。

始まりは偶然に近いもの。日本が世界に誇る楽器メーカー『YAMAHA』。同社の歴史は、その創業者である山葉寅楠氏による一台のオルガンの修理がきっかけという。どことなく、歴史の経緯の一部が重なるようにも思えた。

 設計デザインの一部と木材の並ぶ倉庫。

オルガン製作は教会またはコンサートホールなどの建物の一部となるため、建築の設計段階からその作業が始まる。現在の経営者であるフランチェスコ氏の甥にあたるアルキテット(建築家)が建造物のアルキテットとの打ち合わせを経ながら、オルガンの規模やデザインを決定していく。

楽器の素材は木とパイプ部分の金属などが使われる。使われる木材としては、モミ、クルミ、オーク、トネリコ、ブナ、シナノキ、マホガニーなど。オルガンの素材として使われるために最低3年は寝かせ乾燥させる。
それらをオルガンのそれぞれのパーツ合わせ、適した木材を使用。丁寧に裁断され、一枚の板が美しい楽器の一部と成っていく過程である。
 

特に鍵盤部にあたる黒に近い褐色のマホガニーはここでの大変貴重な木材のひとつ。近年入手が困難だというアフリカ産のそれは大変に密で重さも十分、大理石にも匹敵する硬質さをもつものだという。 

 パイプの成型作業。

そして、オルガンの音色の主体となるのがパイプ(イタリア語ではカンナcanna)。金属(鋼や錫、亜鉛などの合金)または、金属と木製のものとを組み合わせる場合がある。
我々が教会や劇場などで目にするオルガンは、その整然と並んだパイプの迫力に圧倒されるものだが、実は表面から見えるこれらはごく一部というわけだ。
彼らの製作するオルガンのパイプの数は平均4000本。最も多いものではなんと16000本というものまである。つまり、オルガンの裏側には想像以上のパイプの柱が存在していることになる。

 金属の伸し台。

パイプの金属板をのばす作業場で古い器具を見せてもらった。1500年代から使用して今も現役だというそれは、熱して流動状となった金属をのばして平らな板状にするというもの。
部屋の片隅で300℃まで熱した金属をひしゃくですくって流しこみ、手まわしのローラーで伸していくという作業が行われる。
1500年代といえば、ここパドヴァにあるパドヴァ大学の教授だったとしても有名なガリレオ・ガリレイが活躍していた時代でもある。

パイプは先が細く尖った円柱状に成型されるのだが、太さや長さなどが実に様々なもの。それは、オルガンの音を出す構造に因るところであり、音域のある美しい音色を奏でるためには、必要不可欠な条件なのだ。
音は、このパイプに風を送りこんで空気を振動させて生み出される。内部が一定の気圧に保たれている風箱と呼ばれる溝と多数の穴が並ぶ板で覆われた箱にパイプをたて、鍵盤を押すと下から風を送りこむ構造となっており、それにより音が生まれる。鍵盤は主に音階を指示するもの、さらにはストップレバーと呼ばれる音色を切りかえる装置が付随しており、これらが互いにマス目状となって作用し、どのパイプに音を送りこむかが決まることとなる。

 (左)パイプの型が整然と並ぶ。

(中央)組み立てられた木製パイプ。

(右)パイプを立てる穴があいた風箱の上部。

この説明だけでは、オルガンの構造を理解するには容易ではないのだが、とにもかくも複雑であり繊細、壮大で秀麗さを兼ね備えた楽器なのだ。

 現在同工房では25人の精鋭されたアルティジャナーレ(職人)が毎日オルガン製作に取り組んでいる。部品の一部を外注などすることもなく、すべてのパーツを彼ら自身の手で手がけ、オリジナリティを追求する。 
各精鋭たちは、それぞれの持ち場で各人の仕事を黙々とこなす。木材の部門、パイプを主に扱う金属部門、電気系統を手がける者、止め具など小さなパーツばかりを創る者、そして調音をする物、、、それぞれが最終的に一体となり、一台の大きな楽器が出来上がるのだ。これほどの大がかりな楽器であるため、一台を仕上げるのには最低でも3年を費やす。さらにできあがったそれらを現地まで運び、組み立て、音の調整までもが彼ら自身が見届けることとなる。

 (左)コンソーレ(演奏台)の基礎をつくる作業。

(中央)音を出すストップの部分を組み立てる。電気系統との接合部でもある。

(左)音色の調整をする作業。小部屋にて鍵盤を押しながら音を確かめる。

工房を訪れたこの日、各作業ごとに別れた建物の中に足を踏み入れ、彼らの働く姿を目にし、説明を受けた。どの現場もモノ創りにかける職人たちの真剣な眼差しと意気込みがひしと伝わってくる。それでいて、物腰は柔らか。堅甲なのに繊細、優美なこの楽器を象徴するような彼らの姿を感じた。

 同社ロゴが飾られる工房の入口。

現在、同工房の経営者であるフランチェスコ・ルッファッティ氏、ピエロ・ルッファッティ氏ともイタリアオルガン協会の会長を務めてもいる。

『Fabbrica d’Organi Fratelli Ruffatti』
Via Facciolati, 166-35126 Padova
Organs@ruffatti.com

@type 市場価値診断 あなたの市場価値がその場でわかる!


エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン


typeのIT派遣 - ITエンジニア・技術者専門の人材派遣サイト


ページトップへ